1701 TURANDOT BLOG

闇の中の男

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F.ボーソレイユの新作と共に、本日は勝手に読書のコーナーです。

今年に入って、2冊目のポール・オースター作品のご紹介です。

大体、毎年1冊翻訳されるかされないかの作家さんなのに、今年はもう2度も・・・
最高です!
しかも今回の翻訳も柴田さん。オースターファンにとっては完璧な組み合わせ。



「闇の中の男」 ポール・オースター   翻訳 柴田元幸


NY、ブルックリン在住の作家オースター。
彼が9.11を経験し、この作品に初めて描き出した世界とは。

ある男が目を覚ますとそこは、9.11が起きなかったアメリカ。
しかし、代わりにアメリカ本土では内戦が起きている世界に・・・

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ここ日本でも、この数日はキナ臭い「戦争」に関する話題で持ちきりですが・・・

この作品でも、9.11が起きていない世界ではアメリカ軍がその後、イラク侵攻をすることはありません。
しかし、アメリカ内での内紛(戦争)は起こっているという。
どちらに転んでも、争いのある世界。


こんな説明だと、何だか身も蓋もない物語に聞こえますが、核となる本筋は親子3代の物語になっております。
細かくは書きませんが、小津安二郎の傑作「東京物語」を語っているシーンなんかもあり、読みどころは沢山あります。

しかし、ラストに訪れる衝撃。
痛いです。本当に痛いです。
心臓の上にカミソリを当てられたような感じです。


アメリカ、世界、読者自身に、「現実」の安定なんていうものがいかに危ういかを…改めて感じさせる物語。
世の中すべてはなんと早く過ぎていくことか、昨日は子供、今日は老人。いま以降、心臓の鼓動はあと何回か、呼吸は何回か、あと何語話して何語聞けるのか・・・


それでも、こんな闇の中にすら「光」を見出すことが出来た物語。
大人に読んでいただきたい1冊です。